東京高等裁判所 平成4年(ネ)2331号 判決 1993年12月27日
控訴人(原告) 株式会社商工ファンド
右代表者代表取締役 大島健伸
右代理人支配人 大谷滋
被控訴人(被告) 神田信用金庫
右代表者代表理事 清水好二郎
右訴訟代理人弁護士 輿石睦
同 松澤與市
主文
一、本件控訴を棄却する。
二、控訴費用は控訴人の負担とする。
三、原判決主文第二項の末尾に改行の上次のとおり加える。
「原告の被告神田信用金庫に対するその余の請求を棄却する。」
事実
第一、申立て
控訴人代理人は、
「一 原判決中被控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
二 被控訴人は、控訴人が原判決別紙物件目録記載の不動産について東京法務局目黒出張所昭和六二年三月二八日受付第八三九三号所有権移転仮登記(以下「本件仮登記」という。)の本登記手続をすることを承諾せよ。
三 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」
との判決を求め、被控訴人代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
第二、当事者の主張及び証拠関係
原判決事実摘示のとおりである(ただし、原判決二枚目裏三行目「被告」の次に「株式会社」を加え、同一一行目「所有権移転仮登記」を「同月二六日譲渡担保を原因とする本件仮登記」に改める。)から、これを引用する。
理由
一、控訴人の主張は、要するに、控訴人は昭和六二年三月二六日控訴人の原審被告カリマに対する貸金債権を担保するため原審被告カリマ所有の本件不動産につき本件譲渡担保契約を締結し、同月二八日これを原因とする本件仮登記を経由したので、同年六月一六日付けで本件不動産について根抵当権設定仮登記を経由している被控訴人に対し本件仮登記に基づく本登記手続をすることの承諾を求めるというのである。
二、不動産を目的とする譲渡担保契約の場合、外形的には債権者に所有権が移転するものの、内部的には被担保債権の債務不履行を契機として債権債務の清算がされるまでは所有権はなお譲渡担保設定者に残存ないし分属しており、右清算によって初めて確定的、最終的に債権者に所有権が移転するものである。したがって、その実際の担保権としての機能は仮登記担保契約に関する法律「以下「法」という。)一条所定の仮登記担保契約の場合とほぼ共通するものであるが、特に譲渡担保契約のうち、当該譲渡担保権につき仮登記しか経由されていないものについては、債務者、担保権設定者、右仮登記後の担保権者らの間の公平な調整を図るため、その性質上不適当なものを除いて原則として法を類推適用するのが相当というべきである。
三、本件不動産について本件仮登記及び控訴人主張の根抵当権設定仮登記が経由されていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第三号証の一、二、原審証人小尾敏仁の証言、これにより成立を認める甲第一、第二号証並びに弁輪の全趣旨によれば、控訴人と原審被告カリマとの間で本件譲渡担保契約が締結されており、同契約においては、原審被告カリマが控訴人主張の貸金債務の履行を怠ったときは、控訴人はその選択により帰属清算又は処分清算の方法によって右貸金債権の弁済に充当することができる旨の約定があること、控訴人は原審被告カリマに対し請求原因3記載の通知をし、これにより帰属清算の方法を選択したことが認められる。
そして、法五条一項は、担保仮登記後に仮登記を経由した抵当権者等に対して、債権者が同条項所定の通知をしないで担保仮登記に基づく本登記手続の承諾を求めることは許されないとしているものと解されるが、同条項は本件譲渡担保契約にも類推適用されるというべきであるから、控訴人が本件仮登記後に仮登記を経由した抵当権者である被控訴人に対して本件仮登記に基づく本登記手続の承諾を求めるには同条項所定の通知をしていなければならないというべきである。しかし、控訴人は被控訴人に対して右通知をしたことを主張、立証しない(弁論の全趣旨によれば、控訴人は右通知をしていないと認められる。)から、控訴人の被控訴人に対する本件の承諾請求はその余の点について判断するまでもなく失当というべきである。
四、以上の次第で、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は全部棄却すべきものであるから、本訴請求の一部を棄却した原判決に対する本件控訴は結局理由がなく棄却を免れない。よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し、なお、原判決主文に明白な誤謬があるのでこれを更正することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 菊池信男 裁判官 吉崎直彌 伊藤剛)